ベンチャーの資金調達 : Dilutive vs. Non-dilutive Venture Financing

前稿では、シード段階のテクノロジーベンチャーの株式での資金調達についてまとめました。今回はDilutiveとNon-dilutiveの資金調達について考えてみたいと思います。

Dilutive(希薄的または希釈的)とかNon-dilutive(非希薄的または非希釈的)とかいう用語は、ちょっとなじみが無いかもしれませんが、端的に言いますと、資金調達をしたあとに、既存株主の持分比率(シェア)が減るものをDilutive、減らないものをNon-Dilutiveと呼んでいます。

Dilutive資金調達の例です。ベンチャーの創業者が自己資金で会社を立ち上げたと仮定しましょう。発行株式総数が1000株として、このとき創業者の持ち株比率は100%(1000株)ですね。仮にこの会社の価値が1億円として、新株を500株発行し5000万円資金調達したとします。いわゆる「増資」ですね。このとき発行株式総数が1500株となり、会社の価値が1億5000万円となります。それと同時に創業者の持ち株比率は下がって66.7%(1000株/1500株)と希薄化されます。このようにして株式で資金調達をすると、ストックオプションなどの制度を取り入れない限り、既存株主の持ち株比率は希薄化していきます。

一方、Non-dilutiveの資金調達は、調達の前後で既存株主の持ち株比率は変わりません。例としては社債、借入金、公共補助金、などがありますが、売り上げが無く、テクノロジー開発リスクも大きいベンチャーでは、社債発行、金融機関からの借入金・ローンなどはまず不可能な資金調達手段です。テクノロジーベンチャーにとって、重要なNon-dilutiveな資金調達の方法があります。テクノロジーライセンス契約です。

ライセンス契約は、技術開発の途中(まだ製品ができていない段階)でもしばしば締結されます。多くはテリトリーを指定してのライセンス契約です。日本のテクノロジーベンチャーが新規技術を基にした製品を開発しているとします。この製品は世界的に売れる可能性がありますが、アメリカ・ヨーロッパの市場で販売網を作る資金力・経営ノウハウはベンチャーにはありません。そこで、アメリカ・ヨーロッパの企業と独占販売・ライセンス提携するわけです。ただし、まだ製品ができていないので、支払いとしては、契約一時金、年間のライセンス維持料、製品上市時のマイルストーン支払い、売り上げに応じたロイヤリティー支払い、といういろいろな支払いの組み合わせとなることが一般です。また、提携先によっては共同研究も組んで、ベンチャーへの研究費の支払いもあります。

このようなライセンス契約に一部株式を組み合わせたり(プレミアムをつけて株式の取得をしてもらう)、将来の増資のラウンドに参加してもらうという条件をつけたりと、ライセンス契約にはいろいろなバリエーションがあります。

DilutiveとNon-dilutiveとどちらの資金調達が良いかは異論の分かれるところです。Dilutiveの場合の投資家は株式の価値がどんどん成長することもありますが、逆にゼロになるというリスクも覚悟で投資します。その代わりに株主として、経営陣に意見を言うことができますし、場合によっては取締役を送ります。Non-dilutiveの場合の債権者は、借入金の支払いが契約のとおりに遂行されている限り、原則として経営に口を挟みません。債務の契約時にリターン(利率)が確定しるのでそれ以上のアップサイドはありません。ただし、債権者は会社が傾いたときには株主に優先して負債の返還を求めることができます。そのときはいわゆる「銀行管理」という形で、債権者が経営をコントロールすることになりますね。

創業者の理想は、Non-dilutiveの資金調達で持ち株比率を維持して事業を推進していくことと思いますが、売り上げのないテクノロジーベンチャーではNon-dilutive資金調達の手段が限られていて、どうしても増資に頼らざるを得ないというのが実情でしょう。このとき、経営に役に立つアドバイスをしてくれるような投資家が参画してくれることが理想です。

 

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