2016年の5月5日と6日の2日間、UC San Diegoで、”Innovation and Entrepreneurship in Japan”(日本のイノベーションと起業家精神)と題したカンファレンスが行われました。このカンファレンスは、UC San Diego、東京大学、スタンフォード大学、サンタクララ大学の4大学共催で、STAJE(Science, Technology, and Japanese Entrepreneurship)カンファレンスのシリーズです。毎年行われており、今回は第8回目にあたります。
今年のテーマは「日本のイノベーションと起業家精神」ということです。イノベーション、ベンチャー起業についての日米の比較研究、分析発表のカンファレンスです。どちらかというと学術的な面が強いのですが、今年はUC San DiegoのJFITがプログラム担当で(私も手伝いました)、ビジネス界からも講演者を多く招いています。
第一日目(5月5日)は3つのセッションがありました。
Session I は、コーポレートVCについてでした。講演者は、Pacific Leadership Fellow としてUC San Diegoに滞在中のソフトバンクのEric Gan氏(取締役専務執行役員)と、同じくUC San DiegoのJFITにVisiting Scholarとして滞在中の一橋大学准教授の佐々木将人氏でした。Gan氏は、ソフトバンクのNew Business Developmentグループの活動についてのプレゼンテーションでした。Gan氏のグループは、ソフトバンクの戦略にあった領域でグローバルにベンチャー投資、買収を積極的に進めています。コーポレートVCの機能とともに、ライセンス・協業を含めたいわゆる事業開発の活動も行っています。ソフトバンクのスケールには足元には及びませんが、私もライフサイエンスの分野で、1990年代からグローバルに事業開発を担当していたので、業界こそ違うもののダイナミックな戦略提携活動の重要性を再確認しました。
佐々木教授は膨大なデータ解析に基づいて、日米のコーポレートVCの活動を比較分析しました。日本では必ずしもコーポレートVC(別会社、または独立したベンチャー投資グループ)が普及していなく、いまだに、企業が直接ベンチャー投資を行っている状況が多いようです。企業が直接ベンチャー投資をする場合には、日本国外の投資が多く、一方、コーポレートVCは国内、海外を問わず投資をしている傾向にありました。コーポレートVCによる投資活動は、特に、IT、E-Commerceベンチャー、製薬ベンチャーの分野で顕著です。また、コーポレートVCはEarly Stageのベンチャーにも投資をするのに比べて、企業の直接投資はLate Stageに集中する傾向があります。リスクに対する考え方の違いが現れているように思いました。
Session II は、起業、政治、イノベーションにおける女性の役割についてのパネルディスカッションでした。パネリストは、UC San Diegoの政治学の准教授の直井恵氏、武田薬品の村田愛氏、Gallup社Managing PartnerのLarry Emond氏、 UC San Diegoのグローバル政策・戦略大学院のMaya Reynolds氏、一橋大学教授のChristina Ahmadjian氏の5名でした。
このパネルでは、日本の女性活躍促進の動向についての分析とディスカッションがありました。ご存知のように、日本では女性の管理職(課長以上の経営幹部)のパーセントが国際基準と比較して極めて低いです。一般企業で9%、官公庁では3.5%というレベルです。安倍総理は女性の起用を奨励し、2020年までに一般企業で15%、官公庁で7%にすることを政策目標としています。(もともとはそれぞれ30%でしたが、実現不可能な目標だということで、昨年末に大きく下方修正されました。) この目標達成のためには、社会認識の変革、また、管理職に就くべく女性の経営スキルの育成が不可欠となっています。ちなみに、日本近隣国の女性管理職比率は、中国(28%)、韓国(35%)、フィリピン(37%)、ベトナム(38%)、シンガポール(40%)となっていて、日本が極端に低い状況です。世界平均は(43%)ということです。日本(このGallup社のデータでは11%)より低いのはYemenの10%だけでした。経営構造の変化は一朝一夕というわけにはいかず、非常に考えさせられるセッションでした。
Session III は、イノベーションを育成する組織のデザインについてのテーマで、ボストン大学客員教授のArvids Ziedonis氏と、UC San Diego教授で、JFITディレクターのUlrike Schaede氏の講演がありました。Ziedonis教授は、Sematechという、1987年に米国連邦政府主導で組織された、ハイテク企業のコンソーシアムの活動の分析とイノベーションへの貢献についての講演(結論:非常に大きな貢献がありました)、Schaede教授は、日本の信託銀行の企業株保有の分析からコーポレートガバナンス(企業統治)に焦点をあて、信託銀行の企業株主としての役割、直接的、また間接的に経営(特にイノベーションに基づいた成長戦略)へ影響を与えることができるかのディスカッションがありました。
このカンファレンスでは、テーマに応じての日米の比較に焦点があてられ、どちらが良い、悪いということでなく、何がこの違いを生み出しているのか、日本が、アメリカのようなイノベーション経済社会に変革していく(ことを希望しているとして)には、どのようなチャレンジがあるか、具体的にどのような変革が可能かなど、いろいろな視点から白熱した議論がありました。とても勉強になりました。
次のブログではカンファレンス2日目の報告をいたします。